「祖父が亡くなった当時、父が相続するはずだった土地。でも父も登記をする前に亡くなって、今は誰の名義のままなのか分からない」。

こうした状況を「数次相続」と呼びます。家族にとっては「気がついたら何代も前の相続登記が止まっていた」という不安なケースですが、整理の仕方は決まっています。

正直なところ、数次相続は通常の相続登記より手続きが複雑で、戸籍も大量に必要になります。ただ、ポイントを押さえれば必ず整理できる手続きです。

この記事で分かること。

  • 数次相続とは何か(代襲相続との違い)
  • 中間省略登記が認められる例外的な条件
  • 一次相続分の登録免許税が免除される制度(令和9年3月31日まで)
  • 遺産分割協議書の書き方(相続人兼被相続人の表記)
  • よくあるトラブルと専門家依頼の判断基準

相続登記全体の流れは相続登記とは?2024年義務化後にやるべきことの全体像、司法書士費用は相続登記の司法書士費用相場を参照してください。

数次相続とは(代襲相続との違い)

数次相続とは、1回目の相続(一次相続)で遺産分割や相続登記が完了する前に、相続人の1人が亡くなり、新たな相続(二次相続)が発生した状態を指します。

似た言葉に「代襲相続」がありますが、両者は時系列が異なります。

用語時系列内容
代襲相続被相続人より先に推定相続人が死亡子の代襲(孫が相続)、兄弟姉妹の代襲(甥姪が相続)
数次相続被相続人より後に相続人が死亡一次相続の手続き中に相続人が亡くなり、その人の相続人が引き継ぐ

意外だったのが、両者は実務でよく混同されることです。「祖父→父→子」と続く相続の流れが同じように見えるためですが、登記の手順が大きく違うので区別が必要です。

数次相続で発生する追加の手続き

通常の相続より手続きが増える点を整理します。

増える1: 戸籍の範囲が広がる

一次相続の被相続人だけでなく、二次相続の被相続人(一次相続の相続人)の出生から死亡までの戸籍も必要になります。

戸籍取得は1ケースあたり 5,000〜1万円程度の実費がかかり、戸籍取り寄せだけで 1〜2か月かかるケースもあります。

増える2: 相続人の範囲が広がる

二次相続では、亡くなった相続人の配偶者・子なども相続人になります。一次相続だけなら3人だった相続人が、数次相続で6〜8人に増えるケースもよくあります。

増える3: 遺産分割協議が2回必要なことがある

中間省略の条件を満たさない場合、一次相続の遺産分割協議書と二次相続の遺産分割協議書がそれぞれ必要になります。

中間省略登記が認められる条件

通常、不動産の権利関係は「祖父→父→子」と順番に登記する必要があります。これを省略する「中間省略登記」は、原則として認められていません。

ただし、数次相続では一定の条件を満たすと中間省略が認められます。

中間省略登記が認められる例外的なケース

条件中間省略の可否
中間の相続人が最初から1人だった認められる場合がある
中間の相続人は複数だったが、遺産分割で1人に決まった認められる場合がある
中間の相続人は複数で、複数のまま相続が進んだ認められない(原則2回の登記が必要)

中間省略登記の可否は事案ごとの登記実務判断が必要で、戸籍の連続性や登記の経過によって扱いが変わります。実際に進める前に司法書士・法務局に確認するのが確実です。

なぜ「中間が1人」だと省略できるのか

中間の相続人が1人だけだった場合、登記簿上は実質的に「祖父→子」の権利移動と同じことを表現できるためです。法務省も実務的な合理性からこれを認めています。

中間が複数のままだと、2回の登記が必要

中間の相続人が複数で、それが遺産分割で1人にまとまらなかった場合は、まず一次相続の登記(祖父→父含む複数)を行い、その後二次相続の登記(父→子)を行う必要があります。当然、登録免許税も2回分かかります(後述の免税措置あり)。

登録免許税の免税措置(令和9年3月31日まで)

数次相続の登録免許税には、節税につながる重要な制度があります。

一次相続分の登録免許税が免除される

租税特別措置法第84条の2の3により、数次相続が発生して相続登記が複数回必要なケースでは、一次相続分の登録免許税が免除されます。期限は 令和9年(2027年)3月31日までです。

例:祖父→父→子の数次相続で土地(評価額 2,000万円)を取得した場合

登記通常の登録免許税免税適用後
一次相続(祖父→父)8万円(2,000万×0.4%)0円(免除)
二次相続(父→子)8万円(2,000万×0.4%)8万円
合計16万円8万円

土地の登録免許税が約半額になる計算です。免税の適用には、登記申請書に租税特別措置法の条文を引用した記載が必要になります。

評価額100万円以下の土地はさらに免税

評価額が100万円以下の土地は、租税特別措置法第84条の2の3により別途、登録免許税が全額免除されます(令和9年3月31日までの予定)。地方の山林・農地など、評価額の低い土地が含まれているケースでは、両方の免税を組み合わせて活用できる可能性があります。

免税措置は対象や期限が改正で変わることがあります。最新の制度内容は法務局・国税庁の案内で確認してください。

遺産分割協議書の書き方

数次相続の遺産分割協議書は、通常と表記が異なります。

「相続人兼被相続人」の表記

一次相続で亡くなった方は「被相続人」、二次相続で亡くなった方は「相続人兼被相続人」と表記します。二次相続の相続人は、その下に「相続人兼被相続人の相続人」として連なります。

記載順序の例

被相続人: 〇〇〇〇(祖父)

相続人:

  1. 〇〇〇〇(祖母)
  2. 相続人兼被相続人: 〇〇〇〇(父、すでに死亡) 相続人兼被相続人の相続人:
    • 〇〇〇〇(父の配偶者=母)
    • 〇〇〇〇(父の子=申請人)

押印者

各相続人(一次相続の相続人+二次相続の相続人)全員が、遺産分割協議書に実印で押印します。印鑑証明書の添付も全員分必要です。

遺産分割協議書の基本フォーマットは遺産分割協議書の書き方を参照してください。

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よくあるトラブル

数次相続でつまずきやすいパターンを整理します。

トラブル1: 相続人の人数が把握できない

二次相続・三次相続と続くと、相続人が10人を超えるケースもあります。それぞれの戸籍を集めて全員を特定するだけで数か月かかります。

特に、戦前・戦中生まれの被相続人で何度も本籍が変わっている場合や、海外移住者がいる場合は時間がかかります。

トラブル2: 連絡が取れない相続人がいる

相続人の中に「行方不明者」「長年交流のない遠縁の親族」がいると、遺産分割協議が成立しません。家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立てる必要が出てきます。

トラブル3: 中間の相続人の配偶者が認めない

「父が一人で相続するはずだった土地」を子が承継しようとしたら、父の配偶者(つまり継母など)が「自分にも権利がある」と主張するケース。法的にはその通りで、二次相続の相続人として配偶者の同意が必要になります。

トラブル4: 期限の起算点で混乱

2024年4月施行の相続登記義務化(3年以内)の起算点は、「不動産を取得したことを知った日」です。数次相続では「祖父の死亡日」ではなく「父の死亡で自分が相続人になったと知った日」が起算点になることがあります。

専門家に依頼する判断基準

数次相続は手続きが複雑になりやすいため、専門家への依頼を検討するケースが多くなります。

自分で進められるケース

  • 中間の相続人が1人だけだった
  • 戸籍がすでにほぼ揃っている
  • 相続人全員と連絡が取れて協力的

司法書士・弁護士に依頼すべきケース

  • 中間の相続人が複数で、遺産分割で揉めている
  • 戸籍集めに時間がかかりすぎる
  • 行方不明の相続人がいる(不在者財産管理人の選任が必要)
  • 中間省略の可否で判断に迷う

数次相続の司法書士報酬は、通常の相続登記より 5万〜15万円程度加算されることが一般的です。費用相場は相続登記の司法書士費用相場を参照してください。

判断に迷う場合は、複数の司法書士事務所から見積もりと方針の説明を受けて比較してから依頼先を決めるのも一つの方法です。

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よくある質問(FAQ)

数次相続の戸籍はどこまで集めますか?

一次相続の被相続人(祖父など)の出生から死亡までの戸籍と、二次相続の被相続人(父など)の出生から死亡までの戸籍、そして現在の相続人全員の戸籍が必要です。集める範囲が広く、合計 20〜40通になるケースも珍しくありません。

数次相続でも 3年以内の相続登記義務化の対象になりますか?

対象になります。2024年4月施行の相続登記義務化は、過去の相続にも遡って適用されます。「不動産を取得したことを知った日」から 3年以内が起算点で、過去の数次相続も期限内に登記する必要があります。

中間省略登記が認められないケースで、2回登記すると費用が倍になりますか?

司法書士報酬は2回分かかりますが、土地に関しては一次相続分の登録免許税が免除されるため、土地部分の税負担は実質的に増えないケースが多いです(令和9年3月31日まで、対象は土地が中心で建物は対象外)。戸籍取得や郵送費などの実費は2回分かかります。

数次相続で相続放棄はできますか?

できますが、扱いは事案で異なります。二次相続の相続人が「自分の相続(二次相続)」を放棄するか、二次相続の被相続人が一次相続で承継した「相続人としての地位」を放棄するかで考え方が変わり、熟慮期間(3か月)の起算点も別個に進行します。期限と対象の整理が複雑なので、判断前に弁護士・司法書士に相談するのが安全です。詳しい基本は相続放棄の必要書類と手順を参照してください。

戸籍がすべて集まらないケースはどうなりますか?

古い相続では、戦災・火災で戸籍が焼失していることがあります。その場合は「戸籍が存在しない旨の証明書」を発行してもらい、それを添付して相続登記を進めるケースが一般的です。手続きが複雑なため、司法書士への相談が現実的です。

まとめ

数次相続は、相続登記が完了する前に相続人が亡くなり、新たな相続が発生した状態を指します。代襲相続(被相続人より先に推定相続人が死亡)とは時系列が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

押さえておきたいポイントは次のとおりです。

  • 中間の相続人が1人なら中間省略登記が可能、複数なら2回登記が必要
  • 一次相続分の登録免許税は免除(令和9年3月31日まで、租税特別措置法第84条の2の3)
  • 評価額100万円以下の土地もさらに免税
  • 遺産分割協議書は「相続人兼被相続人」の表記
  • 戸籍は一次・二次の被相続人それぞれの出生〜死亡まで必要

行方不明者がいる場合や戸籍が複雑な場合は、司法書士・弁護士への依頼が現実的です。司法書士報酬は通常より 5万〜15万円程度加算が一般的ですが、登録免許税の免税で実質負担を抑えられる可能性があります。

判断に迷う場合は、複数の専門家から見積もりと方針の提案を受けて比較してから依頼先を決めるのも一つの方法です。

次に読む記事は、状況に応じて選んでください。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律・税務の個別アドバイスではありません。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。記載内容は記事公開時点の情報に基づいています。

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