「相続放棄を決めた。でも、何を集めて、どこに出せばいいんだろう」。
相続放棄をするかどうかの判断と、実際に手続きを進めることは別の話です。判断がついても、いざ書類を集める段階で「続柄ごとに必要な戸籍が違う」「申述書のどこに何を書くか分からない」と止まってしまう方が少なくありません。
実は、相続放棄の申立費用は裁判所の案内で明確に示されており、申述書の様式も裁判所のサイトで公開されています。必要書類は続柄や事案によって追加される場合があるものの、続柄ごとに集める戸籍の範囲、申述書の書き方、申立費用、受理証明書の取り方を順番に整理すれば、自分でも進められる手続きです。
この記事で分かること。
- 相続放棄の必要書類(続柄別の戸籍リスト)
- 申述書の書き方と入手方法
- 申立費用の内訳(収入印紙・郵便切手・受理証明書)
- 提出から受理までの流れ
- 申述が却下されるケース
- 専門家に依頼する場合の費用目安
相続放棄をするかどうかの判断は相続放棄すべきかの判断基準と手続きの流れを先に読むと位置づけが整理できます。戸籍の集め方は相続登記に必要な戸籍の集め方が詳細です。
結論:相続放棄の手順全体
相続放棄は次の4ステップで進みます。期限は相続の開始を知った時から 3か月以内です(民法第915条)。
- 必要書類を集める(続柄別、約1〜3週間)
- 申述書を記入する
- 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に提出
- 受理通知書を受け取り、必要に応じて受理証明書を取得
申述書の様式は裁判所のサイトでダウンロードできます(出典: 裁判所「相続の放棄の申述」)。
3か月を過ぎると、原則として法定単純承認となり相続放棄ができなくなります(民法第921条第2号)。例外的に期間伸長や、期限経過後の特別な事情がある場合の受理が認められる余地はありますが、ハードルが高いため、書類集めは早めに着手するのが基本です。
必要書類の一覧(続柄別)
相続放棄に必要な書類は、申述人と被相続人の続柄によって異なります。
全員共通で必要な書類
| 書類 | 取得先 |
|---|---|
| 相続放棄申述書 | 裁判所のサイトでダウンロード、または家庭裁判所窓口 |
| 申述人の戸籍謄本 | 申述人の本籍地の市区町村役場 |
| 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 被相続人の最後の住所地または本籍地 |
| 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本 | 被相続人の本籍地 |
続柄別に追加で必要な書類
| 申述人の続柄 | 追加で必要な戸籍 |
|---|---|
| 配偶者・子(第1順位) | 上記の共通書類のみ |
| 孫など(子の代襲相続人) | 被代襲者(子)の死亡記載がある戸籍謄本 |
| 父母・祖父母(第2順位) | 被相続人の出生〜死亡までの戸籍、被相続人の子(および代襲者)で死亡している方の戸籍 |
| 兄弟姉妹(第3順位) | 被相続人の出生〜死亡までの戸籍、被相続人の父母の死亡記載がある戸籍、被相続人の子・代襲者で死亡している方の戸籍 |
| 甥姪(兄弟姉妹の代襲) | 第3順位の書類+被代襲者(兄弟姉妹)の死亡記載がある戸籍 |
第3順位(兄弟姉妹)や代襲相続人になるほど、集める戸籍の範囲が広がります。被相続人の本籍が何度も変わっている場合は、それぞれの本籍地で戸籍を取得する必要があるため、時間がかかります。
正直なところ、第3順位の相続放棄は戸籍集めだけで 1〜2か月かかるケースもあります。期限まで余裕がない場合は早めに専門家に相談するのが現実的です。
申述書の書き方
相続放棄申述書は、裁判所のサイトから様式をダウンロードできます。記入する主な項目は次のとおりです。
申述書の記入項目
- 申述人の本籍・住所・氏名・生年月日
- 被相続人との関係(続柄)
- 法定代理人(未成年者・成年被後見人の場合)
- 被相続人の本籍・最後の住所・氏名・死亡日
- 相続を知った日(重要、3か月の起算日)
- 放棄の理由
- 相続財産の概要(プラスの財産・債務の概算)
「相続を知った日」の記入で迷いやすいポイント
3か月の期限は「相続の開始を知った時から」起算されます。これは「亡くなった日」ではなく「自分が相続人であることを知った日」を意味します(民法第915条)。
例えば、第3順位の兄弟姉妹は、第1順位(子)と第2順位(父母)が全員相続放棄したことを知った時から3か月です。亡くなった日から3か月以上経っていても、第3順位として相続放棄できるケースが少なくありません。
放棄の理由
「家族の借金を引き継ぎたくない」「他の相続人に譲りたい」「遠方で関わりが薄い」など、率直な理由を簡潔に記入します。法的に「正当な理由」が必要なわけではありません。
申立費用の内訳
相続放棄にかかる実費は次のとおりです。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 800円 | 申述書に貼付。消印は裁判所が押すため、自分で押さない |
| 郵便切手 | 申述人1人につき 約550円 | 110円×5枚など、家庭裁判所により内訳が異なる |
| 戸籍謄本取得費 | 1通 450円〜750円程度 | 取得する戸籍の枚数による |
| 住民票の除票 | 1通 300円程度 | 必要に応じて |
| 受理証明書 | 1通 150円(収入印紙) | 必要に応じて、何通でも申請可能 |
受理証明書の発行費用
相続放棄が受理されると、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られます。これは申述人本人への通知ですが、相続放棄を第三者(金融機関や他の相続人)に証明する必要がある場合は、別途「相続放棄申述受理証明書」を申請します。
証明書は 1通150円の収入印紙で、何通でも発行可能です。金融機関ごとに原本提出を求められる場合に、必要枚数を申請するのが定石です。
提出から受理までの流れ
書類が揃ったら、次の流れで進みます。
ステップ1: 申述書を家庭裁判所に提出
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書・必要書類・収入印紙・郵便切手をまとめて提出します。窓口提出のほか、郵送でも対応可能です。
ステップ2: 照会書(しょうかいしょ)が届く
申述書の提出から 2〜4週間程度で、家庭裁判所から「照会書」が届きます。これは相続放棄の意思が本当にあるか、内容に間違いがないかを確認するための書類です。
照会書には次のような質問が記載されています。
- 相続放棄の意思に間違いはないか
- 相続放棄の意味を理解しているか
- 相続財産の処分(消費・売却)をしていないか
- 「相続を知った日」の確認
ステップ3: 照会書に回答して返送
質問に答えて、家庭裁判所に返送します。記入漏れや内容に矛盾があると、追加の確認が来ることもあります。
ステップ4: 受理通知書を受け取る
照会書の返送から 1〜2週間程度で、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで相続放棄の手続きは完了です。
全体の所要期間は、申述書提出から受理通知書受領まで 1〜2か月程度が目安です。
第3順位の戸籍集めや期限が迫っているケースでは、自分で進めるか専門家に頼むかで結果が大きく変わります。複数の司法書士・弁護士事務所から見積もりと対応範囲の説明を受けて比較すると、自分のケースに合う依頼先が見えやすくなります。
受理通知書と受理証明書の違い
似た名前で混同しやすい2つの書類の違いを整理します。
| 書類 | 性質 | 用途 |
|---|---|---|
| 受理通知書 | 家庭裁判所から申述人本人への通知 | 申述人が手続き完了を確認 |
| 受理証明書 | 申請により発行される証明書 | 金融機関・他の相続人への提示 |
金融機関の口座解約、不動産の名義変更などで「相続放棄をした証明」を求められた場合は、受理証明書を取得して原本を提出します。1通150円で何通でも申請できます。
意外だったのが、受理通知書はコピーでは効力がないと判断されるケースが多い点です。複数の機関への提出が見込まれる場合は、最初から数通の受理証明書を申請しておくと手戻りを防げます。
申述が却下されるケース
相続放棄は基本的に受理されますが、次のようなケースでは却下や受理後の取消しが問題になります。
却下されやすいケース
- 3か月の期限を過ぎての申述(特別な事情があれば認められることもある)
- 相続財産を処分してしまった後(民法第921条で単純承認とみなされる)
- 一部の財産だけを受け取って残りを放棄しようとした
- 申述書の記載内容に矛盾がある
「相続財産の処分」に当たり得る行為の例
- 預貯金を引き出して個人で使った
- 不動産を売却した
- 相続財産から借金を一部返済した(保存行為とされる場合との区別が難しいため要注意)
- 形見分け以外の高価な動産を持ち出した
葬儀費用の支払いは社会通念上必要な範囲なら処分にあたらないとされていますが、判断に迷う支出があった場合は、申述前に専門家に相談する方が安全です。
期限を過ぎた場合の救済
3か月を過ぎても、「相続財産がないと信じていた合理的な理由がある」「借金の存在を後から知った」などの特別な事情があれば、相続放棄が認められるケースもあります。最高裁昭和59年4月27日判決で例外的取扱いが認められた事例があります。
期限経過後の相続放棄は判例の理解と立証が必要なため、弁護士への相談が現実的です。
専門家に依頼する場合の費用目安
相続放棄を専門家に依頼する場合の費用相場は次のとおりです。
| 依頼先 | 費用の目安 | 対応範囲 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 3万〜5万円程度 | 申述書を含む裁判所提出書類の作成、戸籍収集の補助 |
| 弁護士 | 5万〜10万円程度 | 書類作成・代理人として申述・期間伸長・期限経過後の対応・債権者交渉まで |
家庭裁判所に提出する申述書のような「裁判所に提出する書類」の作成は、司法書士法・弁護士法により司法書士・弁護士の業務領域で、行政書士はこの業務を行えません。家庭裁判所での代理人として手続きを進められるのは弁護士のみです。
事案がシンプル(第1順位・期限内・財産処分なし)なら司法書士で十分なケースが多く、第3順位・期限経過・複雑な財産関係や債権者対応が絡む場合は弁護士が向いています。
判断に迷う場合は、複数の専門家から見積もりと対応範囲の説明を受けて比較してから依頼先を決めるのも一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
相続放棄は1人だけでもできますか?
できます。相続放棄は個人ごとの手続きで、他の相続人の同意は不要です。ただし、自分が放棄すると次の順位の人が相続人になります(例: 子全員が放棄→父母→兄弟姉妹)。次順位の方への配慮も検討の上で進めるのが基本です。
相続放棄の申述後にやり直したいと思った場合、撤回できますか?
原則として撤回できません(民法第919条第1項)。ただし、詐欺・強迫を受けて申述した、未成年者なのに法定代理人の同意なく申述したなどの取消事由がある場合は、家庭裁判所に取消しの申立てができます(民法第919条第2項)。
期限の3か月を伸ばせますか?
家庭裁判所に「期間伸長」の申立てをすれば、3か月の期間を延長できる可能性があります(民法第915条第1項ただし書)。財産調査に時間がかかる、相続関係が複雑などの理由があれば認められやすい傾向があります。期限内に申立てを行うことが必要です。
戸籍を取り寄せていたら3か月を過ぎそうです。どうすればよいですか?
期間伸長の申立てで対応できる可能性があります。家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間伸長の申立書」を提出すれば、書類取り寄せの状況を考慮して延長されるケースがあります。3か月の期限が迫っていることに気づいたら、まず家庭裁判所か弁護士に相談してください。
未成年者が相続放棄する場合はどうしますか?
未成年者本人ではなく、法定代理人(親権者)が申述します。親権者も同じ相続で利害が対立する場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申立てて、特別代理人が申述する形になります。
まとめ
相続放棄の手続きは、3か月の期限内に家庭裁判所への申述まで完了させる必要があります。
必要書類は申述人の続柄によって異なり、第3順位(兄弟姉妹)や代襲相続人ほど集める戸籍の範囲が広がります。書類集めだけで 1〜2か月かかるケースもあるため、早めの着手が現実的です。
申立費用の主な内訳は次の通りです。
- 収入印紙 800円
- 郵便切手 約 550円
- 戸籍取得費 数千円〜
- 受理証明書 1通150円(必要に応じて)
申述書提出後、照会書のやり取りを経て、受理通知書が届くまで 1〜2か月程度が目安です。金融機関などへの提示には別途「受理証明書」が必要なため、必要枚数を見込んで申請しておくと手戻りを防げます。
申述が却下されるリスクがあるのは、相続財産を処分してしまった後・期限経過後の申述・一部だけの放棄など。判断に迷う支出や期限経過のケースは、申述前に専門家への相談が安全です。
判断に迷う場合は、複数の司法書士・弁護士事務所から見積もりと対応範囲の説明を受けて比較してから依頼先を決めるのも一つの方法です。
次に読む記事は、状況に応じて選んでください。
- 相続放棄すべきかの判断 → 相続放棄すべきかの判断基準と手続きの流れ
- 戸籍の集め方 → 相続登記に必要な戸籍の集め方
- 必要書類の全体像 → 相続登記で最初に集める書類一覧
- 相続登記の全体像 → 相続登記とは?2024年義務化後にやるべきことの全体像
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