「戸籍を集めるだけで2か月かかった」
相続登記を経験した方からよく聞く言葉です。書類の中でも戸籍は、取得先が複数の市区町村にまたがることが多く、郵送のやり取りだけで時間が積み重なります。
この記事では、相続登記に必要な戸籍の種類・取得方法・費用・よくある詰まりどころを順番に解説します。どこから手をつければよいか迷っている方は、このページを見ながら進められます。
相続登記で必要な戸籍の全体像
相続登記に必要な戸籍は、大きく2種類に分かれます。
- 被相続人(亡くなった方)の戸籍:出生から死亡まで連続したもの
- 相続人全員の現在の戸籍:生存を証明するもの
被相続人の戸籍が「連続」していなければならないのは、法定相続人が誰かを法務局が確認するためです。途中に空白があると受け付けてもらえないため、戸籍のつながりを切らさないことが重要です。
被相続人に必要な戸籍の種類
取得が必要な書類は以下の3種類です。
| 書類の種類 | 内容 | 費用(1通) |
|---|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 現在の戸籍 | 450円 |
| 除籍謄本 | 全員が除籍された戸籍 | 750円 |
| 改製原戸籍(かいせいはらこせき) | 法改正前の旧形式の戸籍 | 750円 |
費用の目安は法務省・各市区町村が定める手数料に基づいています。
婚姻や転籍で本籍地が変わっている場合は、それぞれの市区町村ごとに取得が必要です。結果として、数通から十数通になることも珍しくありません。
相続人に必要なもの
| 書類の種類 | 取得先 | 目的 |
|---|---|---|
| 戸籍謄本(現在のもの) | 各相続人の本籍地 | 生存確認・被相続人との続柄証明 |
| 住民票(本籍記載あり) | 居住地の市区町村 | 不動産取得者の住所証明 |
| 印鑑証明書 | 居住地の市区町村 | 遺産分割協議の合意証明 |
住民票は不動産を取得する相続人のみに必要です。印鑑証明書は、遺産分割協議による登記をする場合に協議に参加した相続人全員分が必要になります。法定相続どおりに登記する場合は印鑑証明書は不要です。
戸籍の取得方法:4つのパターン
パターン1:各市区町村窓口での直接取得
最もシンプルな方法です。本籍地のある市区町村の窓口に直接出向き、戸籍謄本や除籍謄本を申請します。即日交付される場合がほとんどで、その場で内容を確認できる点が利点です。
ただし、本籍地が遠方にある場合は現実的ではありません。
パターン2:郵送での請求
本籍地に直接行けない場合に使います。市区町村ごとに郵送請求に対応しており、以下を準備して送ります。
- 戸籍の請求書(各市区町村のウェブサイトからダウンロード)
- 本人確認書類のコピー(運転免許証など)
- 手数料分の定額小為替(郵便局で購入)
- 返信用封筒(切手貼付・住所記入済み)
請求書には「相続のため、被相続人の出生から死亡までの全戸籍が必要です」と記載すると、担当者が必要な戸籍を判断しやすくなります。ただし市区町村によって対応にばらつきがあるため、受け取った後に「連続しているか」を確認する必要があります。
所要期間は市区町村によりますが、1〜2週間程度が目安です。
パターン3:広域交付制度の利用(2024年3月〜)
2024年3月1日から始まった制度で、最寄りの市区町村窓口で他の自治体の戸籍も取得できるようになりました(戸籍法第120条の2に基づく)。
利用にあたって正確に理解しておきたい点があります。
- 請求できるのは「本人・配偶者・直系尊属(父母・祖父母など)・直系卑属(子・孫など)」です。それ以外の代理人(兄弟姉妹など)による申請はできません
- 郵送での請求には対応していません。窓口に来る必要があります
- 戸籍の附票(住所の履歴証明)は広域交付の対象外です
- コンピュータ化されていない一部の古い改製原戸籍は取得できない場合があります
これらの制約がある一方で、本人が動ける状況であれば、複数の本籍地分をまとめて取得できる利便性は大きいです。複数の市区町村に本籍が散らばっている場合に特に効果的です。
パターン4:法定相続情報一覧図の作成・活用
戸籍収集後の活用方法になりますが、戸籍をすべて揃えた後に法務局へ「法定相続情報一覧図」の申出を行うことで、以降の手続きを大幅に簡略化できます。
法定相続情報一覧図は、相続人の関係を一枚の図にまとめたもので、法務局が認証します。これを使うと、相続登記だけでなく金融機関での預貯金解約手続きでも、大量の戸籍の束を提出せずに済みます。複数の手続きを同時進行している場合に特に役立ちます。
戸籍収集にかかる費用の目安
一例として、被相続人の戸籍が4通(謄本1通・除籍謄本2通・改製原戸籍1通)、相続人3名の場合を想定します。
| 書類 | 通数 | 費用 |
|---|---|---|
| 戸籍謄本(被相続人) | 1通 | 450円 |
| 除籍謄本(被相続人) | 2通 | 1,500円 |
| 改製原戸籍(被相続人) | 1通 | 750円 |
| 戸籍謄本(相続人3名) | 3通 | 1,350円 |
| 住民票(不動産取得者1名) | 1通 | 200〜400円程度 |
| 印鑑証明書(不動産取得者1名) | 1通 | 200〜400円程度 |
| 合計(概算) | — | 4,500〜5,000円程度 |
郵送請求の場合は、定額小為替の購入手数料(1枚100円程度)と返信用封筒の郵送費が別途かかります。
なお、登記申請時の登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)は別途かかります。これは戸籍収集とは別のコストです。
時間がかかりやすいケース
本籍が複数の市区町村にまたがっている
亡くなった方が若い頃に東京、結婚して大阪、その後地元に戻るといった経緯があると、3〜4か所の市区町村にそれぞれ請求する必要が生じます。郵送請求を並行して進めても、すべて揃うまでに1か月以上かかることがあります。
広域交付制度で本人が窓口に行ける場合は、1日でまとめて取得できる可能性があります。
古い改製原戸籍が見つかりにくい
昭和の法改正前、明治・大正の戸籍形式の書類は、市区町村によっては保存期間が切れているケース(150年保存が原則ですが、一部例外があります)や、コンピュータ化されていないために広域交付に対応していないケースがあります。
「廃棄証明書」が発行される場合は、これを相続登記の申請書に添付することで対応できます。
戸籍の記載内容が読み取りにくい
特に昭和30年代以前の戸籍は手書き・旧字体で書かれており、解読に手間がかかることがあります。司法書士に依頼した場合はこの部分も対応してもらえます。
収集後に確認すること
すべての戸籍が揃ったら、以下を確認してから申請に進みます。
- 被相続人の出生から死亡まで連続してつながっているか
- 各戸籍の「筆頭者」「配偶者」「子」の記載から、法定相続人が漏れていないか
- 相続人全員の戸籍と住民票・印鑑証明書がそろっているか
この確認を省いて申請すると、法務局から補正の連絡が来て、やり直しに時間が取られます。特に、前婚の子や認知された子が戸籍に記載されているケースは、戸籍を丁寧に読む必要があります。
まとめ
相続登記における戸籍収集の要点をまとめます。
- 被相続人の戸籍は「出生から死亡まで連続」が必要。除籍謄本・改製原戸籍を含む場合が多い
- 費用は戸籍謄本1通450円、除籍謄本・改製原戸籍1通750円
- 取得方法は「窓口・郵送・広域交付」の3パターン
- 広域交付は本人・配偶者・直系親族が窓口で請求できる(郵送不可・附票は対象外)
- 本籍が複数市区町村にまたがる場合は時間がかかる。早めに着手する
- 法定相続情報一覧図を作っておくと、金融機関など他の手続きでも使える
戸籍収集が終わると、相続登記の準備の大部分が終わっています。次のステップは申請書の作成と法務局への提出です。
次に読む記事は、状況によって変わります。
- 必要書類の全体像を確認したい方 → 相続登記で最初に集める書類一覧
- 自分でやるか専門家に頼むか迷っている方 → 相続登記を自分でやる場合と司法書士に頼む場合の違い
- 相続登記の期限・全体の流れを先に確認したい方 → 相続登記はいつまでに何をすればよいか
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務のアドバイスではありません。具体的な手続きは司法書士・税理士等の専門家にご相談ください。
よくある質問
- Q被相続人の戸籍は、どこから集め始めればよいですか?
- A亡くなった方の最後の本籍地(死亡時の本籍)から始めます。死亡の記載がある最新の戸籍を取得し、そこに記載されている「改製」「転籍」などの情報をたどりながら、出生まで順番にさかのぼります。どこに本籍があったか分からない場合は、住民票の「本籍・筆頭者記載あり」で取得すると確認できます。
- Q戸籍謄本と戸籍抄本、相続登記にはどちらが必要ですか?
- A相続登記では、戸籍に記載されているすべての人の情報が必要なため、謄本(全部事項証明書)が求められます。抄本(個人事項証明書)は特定の人の情報のみで、相続登記には使えません。
- Q広域交付制度を使えば、すべての戸籍をまとめて取れますか?
- Aまとめて取得できる点では便利ですが、いくつか制約があります。窓口で請求できるのは本人のほか、配偶者、父母・祖父母などの直系尊属、子・孫などの直系卑属です。郵送請求・代理人による請求・オンライン請求には対応していません。また、戸籍の附票(住所履歴の証明)は広域交付の対象外です。除籍謄本や改製原戸籍も取得できますが、コンピュータ化されていない一部の古い原戸籍は対応していない場合があります。
- Q相続人の戸籍はいつの時点のものが必要ですか?
- A相続人が現在生存していることを証明するため、現在の戸籍謄本が必要です。戸籍に法律上の有効期限はありませんが、法務局によっては新しいものを求めるケースがあるため、手続き直前に取得しておくと安心です。相続人全員分を用意してください。
- Q法定相続情報一覧図はどこで作成できますか?
- A管轄の法務局(登記所)で申出手続きを行います。収集した戸籍一式と法定相続情報一覧図(自分で作成したもの)を持参または郵送します。無料で交付を受けられ、複数枚の交付も可能です。法務局のウェブサイトに作成例と様式が掲載されています。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。