「自筆で書いた遺言は、無効になることもあるらしい」。

そう聞いて、公正証書遺言を検討する方が増えています。「子どもたちが揉めないように、ちゃんとした形で残したい」「相続のときに家族が困らないようにしたい」——理由はさまざまですが、共通するのは「確実に効力を持つ遺言を残したい」という気持ちです。

ただ、いざ調べ始めると、手数料の計算式が複雑、必要書類が多い、証人を頼める人がいない、といった壁にぶつかります。

実は、公正証書遺言の手数料は財産額に応じた決まった表があり、必要書類のリストも公証役場で案内してもらえます。手順を整理すれば、決して難しい手続きではありません。

この記事で分かること。

  • なぜ公正証書遺言が選ばれるのか
  • 手数料の仕組みと早見表
  • 作成までの5ステップ
  • 必要書類のリスト
  • 証人を誰に頼むか
  • 自筆証書遺言との使い分け

遺産分割の準備としては遺産分割協議書の書き方、相続税の試算は相続税の基礎控除と計算方法が参考になります。

なぜ公正証書遺言が選ばれるのか

公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)とは、公証人が遺言者の意思を聞き取り、公文書として作成する遺言のことです。

遺言には主に3つの方式(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)があります。公正証書遺言は形式不備による無効リスクが低く、原本が公証役場で保管されるため、確実性を重視する方に選ばれやすい方式です。主な理由は次の4点。

  • 公証人が作成するため、形式の不備で無効になるリスクがほぼない
  • 原本は公証役場で保管されるため、紛失・改ざんの心配がない
  • 家庭裁判所での「検認」手続きが不要(自筆は原則必要)
  • 公証人が本人確認と意思確認を行うため、後で「無効」と争われにくい

意外だったのが、自筆証書遺言は本人の直筆要件(財産目録は除く)や日付・押印の不備で無効になるケースが少なくない点です。一方、公正証書遺言は手数料がかかる代わりに、確実性が高い選択肢になります。なお、自筆証書遺言は原則として相続開始後に家庭裁判所の検認が必要ですが、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合は検認不要です。

手数料の仕組みと早見表

公正証書遺言の手数料は、日本公証人連合会の手数料表に基づいて計算されます。財産の価額(相続人ごとに分けた額)ごとに料金が決まる方式です(出典: 日本公証人連合会)。

財産の価額手数料
100万円以下5,000円
100万円超 200万円以下7,000円
200万円超 500万円以下11,000円
500万円超 1,000万円以下17,000円
1,000万円超 3,000万円以下23,000円
3,000万円超 5,000万円以下29,000円
5,000万円超 1億円以下43,000円
1億円超 3億円以下43,000円+5,000万円超過ごとに 13,000円
3億円超 10億円以下95,000円+5,000万円超過ごとに 11,000円
10億円超249,000円+5,000万円超過ごとに 8,000円

計算の注意点

公証人手数料は、相続人・受遺者ごとに「その人が取得する財産の目的価額」で個別に計算し、それを合算する仕組みです。例えば配偶者に 4,000万円、子に各 2,000万円ずつ遺すなら、配偶者分(29,000円)+子A(23,000円)+子B(23,000円)を合算します(出典: 日本公証人連合会)。

遺言加算

財産の総額が 1億円以下の場合は、上記の合計額に 1万3,000円の「遺言加算」が上乗せされます。

書類発行手数料

電子データで発行する場合は1通あたり 2,500円、書面の場合は1枚あたり 300円が別途必要です。

計算例: 遺産6,000万円、配偶者と子1人で半額ずつ

  • 配偶者 3,000万円分の手数料: 23,000円
  • 子 3,000万円分の手数料: 23,000円
  • 小計: 46,000円
  • 遺言加算(1億円以下のため): 13,000円
  • 正本・謄本(合計2通、書面、各5枚程度として): 3,000円程度
  • 合計: 約 62,000円

財産が大きいほど手数料も上がる仕組みですが、弁護士・司法書士に作成代理を依頼するより、公証役場の手数料単独はずっと安価です。

作成までの5ステップ

公正証書遺言の作成は、次の5ステップで進みます。所要期間は 2週間〜2か月程度が目安です。

ステップ1: 遺言の内容を整理する

誰に何を遺したいかをメモに整理します。次の情報を集めておくと、公証役場での相談がスムーズに進みます。

  • 遺言者(自分)の戸籍・住民票情報
  • 相続人・受遺者の氏名・住所・続柄
  • 財産の一覧(不動産、預貯金、株式、生命保険など)
  • 各財産を誰に渡したいか
  • 遺言執行者を誰にするか

ステップ2: 公証役場に予約・相談

最寄りの公証役場に電話・FAX・メールで連絡し、相談日を予約します。

相談日当日は、メモを持参して公証人と方向性を打ち合わせます。この段階では遺言書作成までは行わないため、証人の同席は不要です。

意外と知られていませんが、公証人は出張対応も可能です。病気や高齢で公証役場に行けない場合は、自宅や病院で作成してもらえます(出張手数料が加算)。

ステップ3: 必要書類を集める

公証人から指示された書類を集めます。書類は遺言の内容によって異なりますが、基本的なものは次の通り(詳細は次の章で整理)。

ステップ4: 作成日に証人2名と公証役場へ

作成日には、遺言者本人、公証人、証人2名以上が同席します。公証人が遺言の内容を読み上げ、遺言者が間違いがないかを確認した上で、遺言者・証人2名・公証人がそれぞれ原本に署名・押印します(民法969条)。正本・謄本は、その原本に基づいて公証人が作成する写しです。

所要時間は内容の確認時間を含めて 30分〜1時間程度です。

ステップ5: 正本・謄本の保管

原本は公証役場で保管されます。遺言者は通常その場で正本と謄本(または謄本のみ)を受け取り、必要に応じて遺言執行者にも謄本を渡しておきます。証人は写しを受け取らないのが原則です。紛失しても公証役場に原本があるため、後日謄本を再発行してもらえます。

遺言の存在を相続人が知らないと意味がないため、遺言執行者や信頼できる家族に「公正証書遺言を○○公証役場に作成した」と伝えておくのが基本です。

必要書類のリスト

公正証書遺言の作成には、次の書類が必要です。

書類取得先用途
遺言者の印鑑証明書(3か月以内)市区町村役所遺言者の本人確認
遺言者の戸籍謄本市区町村役所遺言者の特定
相続人の戸籍謄本市区町村役所相続人との続柄確認
受遺者(相続人以外)の住民票市区町村役所受遺者の特定
不動産の登記事項証明書法務局不動産の特定
固定資産評価証明書または納税通知書市区町村役所不動産価額の評価
預貯金の残高情報(通帳の写しなど)金融機関預貯金の特定
証券会社の残高報告書証券会社株式・投資信託の特定

書類が揃わないと、作成日の予約が確定しないことがあります。早めに着手するのが現実的です。

証人を誰に頼むか

公正証書遺言には、公証人以外に証人2名以上が必要です。

証人になれない人

民法第974条で、次の人は証人になれません。

  • 未成年者
  • 推定相続人および受遺者(その配偶者・直系血族も含む)
  • 公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人

「相続人になる予定の家族」は証人にはなれません。

証人を誰に頼むか(3パターン)

  • 友人・知人に頼む: 信頼できる人に頼みやすいが、遺言の内容を知られる
  • 公証役場に紹介してもらう: 守秘義務のある外部の人。謝礼として 1人あたり 5,000〜1万円程度
  • 弁護士・司法書士・行政書士に頼む: 作成全体のサポート込みで依頼するケースが多い

「家族に内容を見られたくない」「証人を頼める知人がいない」という方は、公証役場の紹介サービスや専門家への依頼を検討するのが現実的です。

遺言の作成は内容次第で必要な書類や手数料が変わるため、複数の弁護士・司法書士・行政書士事務所から見積もりと進め方の提案を取り寄せて比較すると、自分のケースに合う依頼先を選びやすくなります。

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メリット・デメリット

公正証書遺言の良い面と注意点を整理します。

メリット

  • 形式不備で無効になるリスクがほぼない
  • 原本が公証役場で保管され、紛失・改ざんの心配がない
  • 検認手続きが不要で、相続開始後すぐに執行できる
  • 公証人が意思確認を行うため、後で「認知症状態だった」と争われにくい

デメリット

  • 手数料がかかる(数万円〜十数万円)
  • 必要書類の準備に手間がかかる
  • 証人2名の手配が必要
  • 内容を変更するには新たに作成し直す必要がある(取り消しは可能)

正直なところ、「費用がかかる」点が最大のハードルですが、相続発生後のトラブル予防効果を考えると、十分元が取れるケースが多いです。

自筆証書遺言との使い分け

公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらを選ぶべきかの判断軸を整理します。

項目自筆証書遺言公正証書遺言
費用紙とペン代のみ(保管制度利用で 3,900円)数万円〜十数万円
形式不備のリスクあり(無効になる事例が多い)ほぼなし
検認手続き必要(法務局保管なら不要)不要
紛失・改ざんリスク自宅保管なら高い/法務局保管なら低いほぼなし
内容変更のしやすさ書き直すだけ改めて作成し直す必要あり
認知能力の証明弱い公証人による意思確認あり

公正証書遺言が向くケース

  • 財産が多い、相続人が複数いる
  • 相続人間で揉める可能性がある
  • 認知症状の懸念がある(早めに作成)
  • 確実な執行を望む

自筆証書遺言が向くケース

  • 財産がシンプル(自宅と少しの預貯金)で相続人も少ない
  • 費用を抑えたい
  • 内容を頻繁に見直したい

2020年から始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を使えば、自筆でも紛失・改ざんリスクを抑えられ、保管申請手数料 3,900円で利用できます。一定の確実性を保ちつつ費用を抑えたい場合は、自筆+法務局保管の組み合わせも選択肢になります。

判断に迷う場合は、複数の専門家(弁護士・司法書士・行政書士)に相談して見積もりと提案を比較してから、自分に合う遺言方式を決めるのも一つの方法です。

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よくある質問(FAQ)

公正証書遺言の作成にどのくらいの期間がかかりますか?

書類の準備と公証役場との打ち合わせを含めて、2週間〜2か月程度が目安です。書類の取得に時間がかかる場合や、公証役場の予約が混み合っている場合は、それ以上かかることもあります。

公証役場に行けない場合はどうすればよいですか?

公証人の出張作成が可能です。病気・高齢で外出が困難な場合、自宅・病院・施設で作成してもらえます。出張手数料は、通常の手数料の1.5倍プラス交通費が別途必要です(日当も発生)。

遺言内容を変更したい場合はどうしますか?

新たに公正証書遺言を作成すれば、後の遺言が優先されます(民法第1023条)。一部だけ変更したい場合でも、新規作成という形をとります。古い遺言を取り消すには「撤回」の文言を入れた新しい遺言を作成します。

遺言執行者は必ず指定する必要がありますか?

法律上の必須ではありませんが、指定しておくと相続発生後の手続きがスムーズになります。遺言執行者には弁護士・司法書士などの専門家を指定するケースも多く、相続人の中から選ぶこともできます。

公正証書遺言があっても遺留分は請求できますか?

できます。遺留分(民法第1042条)は法律で保障された最低限の取り分で、公正証書遺言の内容が遺留分を侵害する場合でも、相続人は遺留分侵害額請求が可能です。遺言を作成する段階で遺留分を考慮した分割を設計するのが安心です。

まとめ

公正証書遺言は、確実性の高さで選ばれることが多い遺言方式です。手数料は相続人・受遺者ごとの目的価額で計算して合算する仕組みで、遺産 6,000万円・相続人2人なら手数料計 6万円程度が一つの目安になります。

作成までの5ステップは「内容整理→公証役場で相談→書類準備→作成日に証人2名と署名→正本・謄本の保管」。所要期間は 2週間〜2か月程度です。

証人2名は、相続人や受遺者およびその近親者は不可。頼める人がいない場合は、公証役場の紹介や専門家への依頼で対応できます。

自筆証書遺言と比べると費用はかかりますが、形式不備で無効になるリスクがほぼなく、検認手続きも不要です。相続発生後のトラブル予防という観点では十分元が取れます。

費用を抑えたい場合は、自筆証書遺言+法務局保管制度(保管申請手数料 3,900円)の組み合わせも選択肢になります。

次に読む記事は、状況に応じて選んでください。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律・税務の個別アドバイスではありません。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。記載内容は記事公開時点の情報に基づいています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。