「相続税って、うちは払うことになるんだろうか」。

親が亡くなったあと、最初に気になるのが相続税の有無です。インターネットで調べると「3,000万円+600万円×法定相続人」という式は出てくるのですが、自分の家の遺産がそれを超えるのか、もし超えたら何円払うのか、計算の道筋がつかみにくいものです。

実は相続税は、決められた手順を踏めば、自分でもおおよその金額を試算できます。複雑そうに見えるのは、計算順序を誤って理解しているからです。

この記事で分かること。

  • 相続税の基礎控除の正しい計算式と早見表
  • 法定相続人の数え方(4つの注意点)
  • 相続税の計算手順(4ステップ)
  • 国税庁の相続税速算表(全段階)
  • 計算例3パターン
  • 「申告不要に見えて、実は申告が必要」な3つのケース

相続全体の進め方を先に知りたい方は相続登記とは?2024年義務化後にやるべきことの全体像から読むと位置づけが掴みやすくなります。

結論:基礎控除の計算式と早見表

相続税の基礎控除は、次の式で計算します。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

遺産総額(プラスの財産からマイナスの債務を引いた金額)がこの基礎控除を超えると、相続税の申告と納税が原則として必要になります。

法定相続人の数別の早見表は次のとおりです。

法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
5人6,000万円
6人6,600万円

例えば、配偶者と子2人が相続人なら法定相続人は3人で、基礎控除は 4,800万円。遺産が現預金 3,000万円、不動産(路線価ベース)1,500万円の合計 4,500万円なら、基礎控除以下のため申告不要というのが基本の判断です。

ただし、後で説明するとおり「申告不要に見えて、実は申告が必要」なケースもあるため、最後まで読んでから判断するのが安心です。

法定相続人の数え方(4つの注意点)

基礎控除の計算で最も間違えやすいのが、法定相続人の数え方です。次の4つを押さえると正確に数えられます。

注意1: 配偶者と血族の順位

配偶者は常に法定相続人になります。配偶者以外は、次の順位で誰か1グループだけが相続人です。

  • 第1順位: 子(死亡している場合は孫が代襲)
  • 第2順位: 父母(死亡している場合は祖父母)
  • 第3順位: 兄弟姉妹(死亡している場合は甥姪が代襲)

第1順位の子が1人でもいれば、父母や兄弟姉妹は相続人になりません。

注意2: 相続放棄した人も「相続人の数」に含める

基礎控除の計算上は、相続放棄した人も法定相続人の数に含めます。これは民法上の相続人とは別の、相続税法上の独自のルールです。

子3人のうち1人が相続放棄しても、基礎控除の計算では法定相続人 3人として扱います。「放棄した人を引いて 2人にすれば基礎控除が下がる」とはなりません。

注意3: 養子は人数制限あり

養子も法定相続人になりますが、相続税の計算上は次の人数までしか含められません。

  • 実子がいる場合: 養子は 1人まで
  • 実子がいない場合: 養子は 2人まで

ただし、特別養子縁組による養子や、配偶者の連れ子を養子にした場合などは、実子と同じ扱いで人数制限を受けません。

注意4: 胎児も相続人

被相続人の死亡時に胎児だった子も、生まれてくれば相続人になります。基礎控除の計算でも法定相続人として数えます。

相続税の計算手順(4ステップ)

相続税の計算は、次の4ステップで進みます。「遺産総額にいきなり税率を掛ける」のは誤りなので注意してください。

ステップ1: 課税遺産総額を計算

最初に、遺産総額から基礎控除を引いて課税対象になる金額を求めます。

課税遺産総額 = 遺産総額(プラス財産 − マイナス債務・葬式費用) − 基礎控除額

ここがゼロまたはマイナスなら、原則として申告不要になります。

ステップ2: 法定相続分で各相続人に按分

課税遺産総額を、法定相続分の割合で各相続人に分配したと仮定します(実際の分割と異なってもこの計算をします)。

法定相続分の例:

  • 配偶者と子: 配偶者 1/2、子は残り 1/2 を人数で按分
  • 配偶者と父母: 配偶者 2/3、父母 1/3
  • 配偶者と兄弟姉妹: 配偶者 3/4、兄弟姉妹 1/4

ステップ3: 各人の取得金額に税率を掛けて合算

ステップ2で按分した各人の金額に、国税庁の速算表の税率と控除額を当てはめ、各人の仮の税額を計算します。全員分を合計したものが「相続税の総額」です。

ステップ4: 実際の取得割合で各人の納税額を計算

相続税の総額を、実際に各相続人が取得した遺産の割合で按分し、各人の納税額が確定します。

正直なところ、ステップ2と3の「法定相続分で計算する仮の手続き」が分かりにくい部分です。これは「実際の分割の仕方で相続税の総額が変わらないようにする」ための仕組みです。

国税庁の相続税速算表

ステップ3で使う速算表は、国税庁が公開しています(出典: 国税庁 No.4155 相続税の税率)。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超 3,000万円以下15%50万円
3,000万円超 5,000万円以下20%200万円
5,000万円超 1億円以下30%700万円
1億円超 2億円以下40%1,700万円
2億円超 3億円以下45%2,700万円
3億円超 6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

意外だったのが、6億円超は税率 55%という高い負担になる点です。多くの一般家庭は1億円以下の取得金額帯(税率 30%以下)に収まりますが、不動産が多い家庭では1人あたりの取得金額が1億円を超えるケースもあります。

計算例3パターン

実際の数値で計算例を見ていきます。

例1: 遺産6,000万円・相続人 配偶者と子1人

  • 基礎控除: 3,000万円+600万円×2人=4,200万円
  • 課税遺産総額: 6,000万円−4,200万円=1,800万円
  • 法定相続分按分: 配偶者900万円、子900万円
  • 各人の税額: 900万円×10%=90万円ずつ
  • 相続税の総額: 90万円+90万円=180万円

実際の取得割合(例: 配偶者が全額取得)に応じて、配偶者180万円・子0円のように按分します。

なお、この例では「配偶者の税額軽減」を使えば配偶者の相続税は0円になります(後述)。

例2: 遺産1億円・相続人 配偶者と子2人

  • 基礎控除: 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 課税遺産総額: 1億円−4,800万円=5,200万円
  • 法定相続分按分: 配偶者2,600万円、子1,300万円ずつ
  • 各人の税額: 配偶者2,600万円×15%−50万円=340万円、子1,300万円×15%−50万円=145万円ずつ
  • 相続税の総額: 340万円+145万円×2=630万円

例3: 遺産5,000万円・相続人 子3人のみ(配偶者なし)

  • 基礎控除: 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 課税遺産総額: 5,000万円−4,800万円=200万円
  • 法定相続分按分: 子それぞれ 200万円×1/3=約66.7万円
  • 各人の税額: 66.7万円×10%=約6.7万円ずつ
  • 相続税の総額: 約20万円

自分の家のケースで概算を出したくても、不動産の評価方法(路線価方式・倍率方式)や生前贈与の持ち戻しが絡むと、正確な金額はつかみにくくなります。試算だけでも税理士に相談すると、申告の要否や特例の使い方の見通しが立ちやすくなります。

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特例適用前は基礎控除を超えるが、特例で税額が下がる3つのケース

特例適用前の遺産総額が基礎控除を超えていて、特例の適用後に税額が下がる(あるいは0になる)次の3パターンでは、特例を使うために必ず申告が必要です。「税額0だから申告不要」と判断すると、特例そのものが使えなくなります。

ケース1: 配偶者の税額軽減を使う場合

配偶者が取得した遺産は、1億6,000万円までまたは法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかかりません(相続税法 第19条の2)。

ただし、この特例は申告書を提出することで適用されます。「配偶者が全部相続するから申告不要」と思い込んで申告しないと、特例が使えず追徴課税のリスクがあります。

ケース2: 小規模宅地等の特例を使う場合

自宅の土地について、要件を満たす相続人が取得すれば、330平米までの評価額が 80%減額される特例です。

例えば自宅の土地評価額が 5,000万円なら、特例適用で 1,000万円に圧縮されます。これにより基礎控除以下に収まるケースが多いのですが、特例の適用には申告が必須です。

ケース3: 農地等の納税猶予を使う場合

農地を相続して農業を継続する場合、相続税の納税が猶予される制度があります。これも申告が必要です。

「特例を使えば税額ゼロだから申告しなくていい」と考えるのは危険です。特例適用の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税の通常の申告期限と同じ)です。

よくある誤解と注意点

誤解1: 「うちは現金が少ないから相続税はかからない」

相続税の対象は現金だけでなく、不動産・株式・生命保険金(後述)・ゴルフ会員権・貴金属など、ほぼすべての財産が含まれます。「実家の不動産+わずかな預金」でも基礎控除を超えるケースは少なくありません。

誤解2: 「生前贈与すれば相続税は0円」

2024年1月1日以降の生前贈与は、相続税の計算に持ち戻される期間が「死亡前3年」から段階的に最長「7年」に拡大されました(経過措置あり)。加算対象期間の延長分には100万円の控除があるなど制度が細かいため、駆け込み贈与での節税効果は薄く、計画的な進行と税理士確認が現実的です。

誤解3: 「二次相続まで考えなくていい」

一次相続(最初に亡くなった人の相続)で配偶者税額軽減を最大限使うと、配偶者が遺産を多く取得することになります。すると次に配偶者が亡くなった二次相続で、配偶者控除が使えず相続税が重くなる場合があります。

一次・二次の合計税額で考えると、配偶者がすべて相続するより、子に一部相続させた方が有利なケースもあります。

よくある質問(FAQ)

相続税の申告期限はいつまでですか?

相続の開始を知った日の翌日から 10か月以内です。期限を過ぎると無申告加算税・延滞税がかかります(税率は申告状況や時期で変動)。期限内に分割が決まらない場合は、まず法定相続分で計算したいわゆる未分割申告を行い、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくと、後日の分割確定後に更正の請求などで配偶者税額軽減・小規模宅地等の特例を遡って適用できる場合があります。手順が細かいため税理士相談が現実的です。

相続税の申告は自分でできますか?

遺産がシンプル(現金中心、相続人が少ない)なら自分での申告も現実的です。一方、不動産が複数ある、非上場株式がある、養子がいる、生前贈与の整理が必要な場合などは、税理士に依頼するのが安全です。税理士費用の目安は遺産総額の 0.5〜1.0% 程度(最低 30万〜50万円程度)。

法定相続人がいない場合は基礎控除はどうなりますか?

法定相続人が0人の場合、基礎控除は 3,000万円のみです(600万円×0人=0円なので加算なし)。遺言で誰かに遺贈する場合や、特別縁故者が財産を取得する場合に該当することがあります。

遺産総額の評価額はどう決まりますか?

種類によって計算ルールが定められています。現預金は残高、上場株式は数種類の価格の最低値、不動産は土地が路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額です。生命保険金や退職金には別途の非課税枠(500万円×法定相続人の数)があります。

相続税を払えない場合はどうなりますか?

延納(最長20年の分割払い)や物納(不動産などで納付)の制度があります。ただし要件が厳しく、税務署への申請と審査が必要です。早めに税理士・税務署に相談するのが望ましいです。

まとめ

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。遺産総額がこれを下回れば、原則として申告は不要です。

ただし、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例・農地等の納税猶予を使う場合は、税額ゼロでも申告が必須です。「うちは特例で税額ゼロだから何もしなくていい」と思い込むと追徴課税のリスクがあります。

計算手順は4ステップ。「遺産総額に直接税率を掛ける」のは誤りで、課税遺産総額を法定相続分で按分してから速算表を使うのが正しい順序です。

不動産が多い、相続人が複雑、生前贈与の整理が必要な家庭では、税理士に相談するのが現実的です。費用は遺産総額の0.5〜1.0%程度が目安になります。判断に迷う場合は、複数の税理士事務所から見積もりを取り、内容を比較してから決めるのも一つの方法です。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律・税務の個別アドバイスではありません。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。記載内容は記事公開時点の情報に基づいています。

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