「父の遺言で『財産は全部、長男に』と書かれていた。次男の自分は何ももらえないんだろうか」。
遺言で相続分が偏っている場合、ほかの相続人が一定額を取り戻せる仕組みがあります。「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ばれるものです。
ただ、遺留分には誤解も多く、「遺言があれば請求できない」「兄弟みんなに認められる」と思い込んでいる方が少なくありません。
実は、遺留分の制度は2019年(令和元年)7月に大きく変わりました。「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」に変更され、現物返還から金銭請求へと性質が転換しています。
この記事で分かること。
- 遺留分にまつわる3つのよくある誤解
- 遺留分とは何か(民法1042条の位置づけ)
- 遺留分が認められる人・認められない人
- 計算式と計算例3パターン
- 遺留分侵害額請求の手続きと時効
遺言書の作成は公正証書遺言の作成手順と費用、遺産分割協議の進め方は遺産分割協議書の書き方を参照してください。
まず整理:3つのよくある誤解
遺留分について、よく見かける誤解を先に整理しておきます。
誤解1: 遺言があれば遺留分は無視できる
無視できません。
遺留分は法律で保障された最低限の取り分です。遺言で「全財産を○○に」と書かれていても、遺留分を持つ相続人は侵害された分を請求できます。
誤解2: 兄弟姉妹にも遺留分がある
兄弟姉妹に遺留分はありません。
民法1042条で「兄弟姉妹以外の相続人」と明確に規定されています。被相続人に子・直系尊属(父母・祖父母)がおらず、兄弟姉妹のみが相続人の場合、遺言の内容がそのまま実現します。
誤解3: 遺留分侵害額請求は「もらえるはずだった現物」を取り戻すこと
2019年7月以降は違います。
2019年(令和元年)7月の民法改正で、遺留分の請求は「現物を取り戻す」から「金銭で支払いを請求する」方式に変わりました。不動産や株式の現物そのものではなく、その価値分の金銭を払ってもらう仕組みです(民法1046条)。
遺留分とは(法的位置づけ)
遺留分とは、被相続人が遺言や生前贈与で財産を自由に処分した場合でも、一定の相続人に対して法律が保障する最低限の取り分のことです。
民法1042条で次のように定められています。
- 直系尊属のみが相続人の場合: 遺留分は相続財産の 1/3
- それ以外の場合: 遺留分は相続財産の 1/2
「兄弟姉妹以外の相続人」だけが対象です。
正直なところ、遺留分制度は「遺言で家族の最低限の生活が奪われない」ためのセーフティネットの役割を果たしています。完全な自由処分を認めると、残された家族が困窮するリスクがあるため、法律が線を引いているのです。
遺留分が認められる人・認められない人
| 相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者 | あり |
| 子(直系卑属) | あり |
| 父母・祖父母(直系尊属) | あり |
| 兄弟姉妹 | なし |
| 甥姪(兄弟姉妹の代襲) | なし |
代襲相続人にも、もとの被代襲者が遺留分を持っていれば、遺留分が認められます(子の代襲としての孫など)。
意外だったのが、内縁関係や養子縁組していない配偶者には遺留分が認められない点です。遺留分は法律上の相続人に限られた権利です。
遺留分の計算式
遺留分は次の2段階で計算します。
ステップ1: 遺留分の総枠を計算 ステップ2: 各相続人の遺留分を計算(総枠×個人の法定相続分)
全体の遺留分総枠
- 直系尊属のみが相続人 → 相続財産の 1/3
- それ以外 → 相続財産の 1/2
個人の遺留分
個人の遺留分 = 遺留分の総枠 × その人の法定相続分
例:相続人が配偶者と子1人、遺産1億円の場合
- 全体の遺留分総枠: 1億円 × 1/2 = 5,000万円
- 配偶者の遺留分: 5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
- 子の遺留分: 5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
算定基礎財産
遺留分を計算する元の財産(算定基礎財産)は次の式で求めます(民法1043条・1044条)。
算定基礎財産 = 相続開始時の財産 + 生前贈与(条件付き) − 債務
生前贈与の算入期間
| 贈与の相手 | 算入される期間 |
|---|---|
| 第三者(相続人以外) | 相続開始前 1年以内の贈与 |
| 相続人(特別受益にあたる贈与) | 相続開始前 10年以内の贈与 |
相続人への贈与で算入対象になるのは、原則として婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた「特別受益」にあたる贈与です。すべての贈与が10年遡って算入されるわけではありません。
なお、上記の期間より前であっても「遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与」は算入されます。
計算例3パターン
具体的な数値で計算例を見ていきます。
例1: 遺産6,000万円、配偶者と子1人、遺言で全額を子に
- 算定基礎財産: 6,000万円
- 全体の遺留分: 6,000万 × 1/2 = 3,000万円
- 配偶者の法定相続分: 1/2
- 配偶者の遺留分: 3,000万 × 1/2 = 1,500万円
配偶者は子に対して 1,500万円の遺留分侵害額請求ができます。
例2: 遺産1.2億円、配偶者と子2人、遺言で全額を愛人に
- 算定基礎財産: 1.2億円
- 全体の遺留分: 1.2億 × 1/2 = 6,000万円
- 配偶者の遺留分: 6,000万 × 1/2 = 3,000万円
- 子それぞれの遺留分: 6,000万 × 1/4 = 1,500万円ずつ
配偶者と子2人は、合計 6,000万円の遺留分侵害額請求ができます。
例3: 遺産3,000万円、父母のみが相続人、遺言で全額を慈善団体に
- 算定基礎財産: 3,000万円
- 全体の遺留分: 3,000万 × 1/3(直系尊属のみのため)= 1,000万円
- 父母それぞれの遺留分: 1,000万 × 1/2 = 500万円ずつ
父母合わせて 1,000万円の請求が可能です。
遺留分の計算は、生前贈与の算入期間や不動産の評価で実際の金額が大きく変わります。交渉・調停・訴訟まで見据えるなら弁護士、遺言設計や付随の登記対応もまとめて相談したい場合は弁護士と司法書士の役割分担も含めて、複数の事務所から見積もりと方針を取り寄せて比較すると、自分のケースに合う進め方が見えやすくなります。
遺留分侵害額請求の手続きと時効
遺留分が侵害されていると分かったら、侵害している相手(遺贈や贈与を受けた人)に対して請求します。
請求の方法
民法上、特定の様式はありませんが、後の証拠のため次の手順を踏むのが一般的です。
- まず内容証明郵便で請求する意思を伝える
- 相手と協議を試みる
- 合意できなければ家庭裁判所の調停を申し立てる
- 調停不成立なら訴訟へ
内容証明郵便は弁護士に依頼するケースが多く、依頼費用は 5万〜20万円程度(事案の規模による)が目安です。
時効と除斥期間(民法1048条)
遺留分侵害額請求には2つの期間制限があります。
- 時効: 相続開始および遺留分侵害があったことを知った時から 1年
- 除斥期間: 相続開始の時から 10年(知っていたかどうかを問わない)
特に時効1年は短いので、「遺言の内容を知った」「遺留分が侵害されていると気づいた」段階で速やかに対応する必要があります。
2019年改正のポイント
2019年7月施行の改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、不動産や株式の現物そのものが共有状態になる仕組みでした。
改正後は「遺留分侵害額請求」となり、金銭での請求になりました。これにより不動産の共有関係を避けられ、当事者間の負担が軽くなりました。
ただし、相手が金銭を一括で用意できない場合は、裁判所が支払期限を猶予するケースもあります(民法1047条)。
よくある質問(FAQ)
遺留分は放棄できますか?
相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。許可なく放棄しても法的に無効です。相続開始後の放棄は自由で、口頭でも可能ですが、後のトラブル防止のため書面で残すことをおすすめします。
遺留分侵害額請求の弁護士費用はどのくらいですか?
事案の規模によりますが、相談料は無料〜1万円程度、着手金は侵害額の 5〜8%程度、成功報酬は実際に取得した額の 10〜16%程度が一つの目安です。日本弁護士連合会の旧報酬規程ベースの相場で、事務所によって幅があります。
遺留分侵害額請求は調停や訴訟まで進まないと解決しませんか?
実務上は、まず内容証明郵便で請求の意思を伝え、当事者間または弁護士を介した協議で合意するケースが多いです。協議で解決しない場合に調停・訴訟に進む流れです。
遺留分侵害があるかどうかを自分で計算できますか?
簡単なケース(遺産が現金のみ、相続人が少ない)であれば自分でも計算可能です。不動産・株式・生前贈与が絡む場合は、評価額の算定が複雑になるため、弁護士や税理士への相談が現実的です。
遺留分は相続税の計算上どう扱われますか?
遺留分侵害額請求で確定した金額は、当事者双方の相続税課税関係に影響することがあります。請求側・支払側のいずれも、確定タイミングによって修正申告・更正の請求といった手続きが必要になる場合がありますが、扱いは個別事情で変わるため、必ず税理士に相談してください。
まとめ
遺留分は、被相続人が遺言や生前贈与で財産を自由に処分しても、一定の相続人に法律が保障する最低限の取り分です(民法1042条)。
押さえておきたいポイントは次の通りです。
- 兄弟姉妹に遺留分はない
- 全体の遺留分は、直系尊属のみなら 1/3、それ以外なら 1/2
- 個人の遺留分 = 全体の遺留分 × その人の法定相続分
- 2019年7月以降は金銭での請求(遺留分侵害額請求)
- 時効は知った時から 1年、相続開始から 10年で除斥期間
遺留分が侵害されていて請求や交渉・調停・訴訟を見据える場合は弁護士、遺言の設計や登記対応も併せて検討したい場合は司法書士との連携も含めて、相談先を選ぶのが現実的です。
判断に迷う場合は、複数の専門家から見積もりと方針の提案を受けて、自分のケースに合う依頼先を比較してから決めるのも一つの方法です。
次に読む記事は、状況に応じて選んでください。
- 遺留分を考慮した遺言書を作りたい方 → 公正証書遺言の作成手順と費用
- 遺産分割協議を進める方 → 遺産分割協議書の書き方
- 相続税の計算を整理したい方 → 相続税の基礎控除と計算方法
- 相続登記の全体像 → 相続登記とは?2024年義務化後にやるべきことの全体像
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律・税務の個別アドバイスではありません。具体的には司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。記載内容は記事公開時点の情報に基づいています。
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